SYU-KATSU SPICES就活に役立つ話題集

シゴトビトの言葉学

[第48講] 株式会社ヘラルボニー 岩手コミュニティマネージャー 矢野 智美のコトバ

毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。

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憧れのアナウンサーに

群馬県富岡市出身。高校3年の時、合唱部顧問の先生から「矢野ちゃんはアナウンサーに向いているのでは」と言われる。先生と一緒に、名古屋でアナウンサーをしている卒業生に会いに行き、そのオーラに魅了され将来の仕事を決める。夢を実現するため東京の大学に進学。就職活動では全国の放送局に応募書類を出した。その数、約100通。なかなか内定が得られなかったが、岩手県の放送局から最初の採用通知をもらい、知り合いゼロの「岩手」で暮らすことに。ローカル局の人気番組やキー局の報道番組に出演するなどして人気局アナの一人になった。

岩手、盛岡の良さをドキュメンタリーで 

東日本大震災の被災地、洋野町から陸前高田市までの約300㌔を歩き、災害を学び人々の暮らしを伝える番組づくりに参加。時々刻々変化する海や空の色。そして「岩手」に住む人たちの温かさが身に染み、価値観が変わった。都会にはない岩手の魅力を全国に発信したいと、大好きな神子田の朝市のドキュメンタリーを作るためカメラを手に取材を始める。兼務をしていることなどから、アナとして「ミスは許されない」という緊張が続き、メンタル不調になる。ストレスチェックを受け、病院に行くと、うつ病と診断され休職することに。「やりかけになってしまった番組を完成させたら新しい道へ進もう」と決意し復帰。1年後の2022年1月、番組が全国ネットで放送されたことをきっかけに、後ろ髪を引かれながらも、退職を決めた。その後、東京に引っ越し、ITベンチャーで働いていた時期もあった。大好きな神子田の朝市に、再び訪れるために泊まった盛岡市内のホテルで転機が訪れる。そこは、ヘラルボニーがプロデュースした施設だった。宿泊した感想をインスタグラムで紹介したことがきっかけで同社に誘われ、現職に。

岩手を聖地化する 

現在の仕事を一言で表すと「岩手をヘラルボニーの聖地にすること」。ヘラルボニーの活動をさまざまな形で発信し、岩手県、盛岡市をヘラルボニーの聖地にするために奔走している。
日々自分に問いかけているのは「ふつう」だ。放送局時代の私の「ふつう」は、アナとしてキャリアを積み、将来は報道番組のキャスターになることだったかもしれない。でも自分にとっての「ふつう」は違うのではないかと一度立ち止まった。今回話を聞いてくださった方に考えてもらいたいのは、こんなことだ。【あなたの「ふつう」も誰かの影響を受けての「ふつう」なのかもしれません】。ヘラルボニーで仕事をして障害のある人の作品に触れると「ふつうじゃない」が「ふつう」になっていく。例えばボールペンで丸を書き続ける作家さんがいる。普通ならこれは少し「変わっている」かもしれない。でもヘラルボニーは「障害=絵筆」と考え、「変わっている」ことを「異彩」と捉えている。アナを辞めた自分の経験からも言えるのは、一歩踏み出すことで世界は変わるということ。「変」は「変」ではなくなるということ。「これからの時代、取って代えることができない『変』な人。一人一人が放つ『異彩』が求められていくのではないだろうか。
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矢野 智美(やの・ともみ):
東京女子大学卒業後、2015年4月にテレビ岩手にアナウンサーとして入社。「5きげんテレビ」などに出演。メンタル面の不調で休職。ディレクターとしても仕事をし、神子田朝市のドキュメンタリー「雨の日も雪の日も〜もりおか朝市日記〜」を制作、全国放送される。2022年9月同社を退職し、東京のITベンチャーを経て2023年2月から現職。 

株式会社ヘラルボニー:
自閉症の兄を持つ、金ケ崎町出身の双子の兄弟、松田崇弥(代表取締役社長)さんと松田文登(代表取締役副社長)さんが2018年7月に設立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットとして福祉施設に在籍する知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、福祉を起点に新しい文化創造を目指してさまざまな事業を展開している。

 

\矢野さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/

・笑顔がとても素敵で、温かい人柄なのがお話しから伝わってきました。私は今転職活動中ですが、前職でうつ病を経験されたことなど、伝わってくるものが自分自身と重なり、とても好感を持てました。ヘラルボニーに対する見方も変わりました。
・小さいころから障害を持った方が作ったものが安いのが不思議でした。同じ人間なのに…。こんなに素敵なのに…。普通とは何なのか良い意味でわからなくなるお話でした。本当に普通って何なんですかね。
・「転職しても前の自分と地続きでつながっている」という言葉が良かったです。おもいきってやってみて何とかなると聞くと安心します。


「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。矢野さんは150人目のゲストでした。