SYU-KATSU SPICES就活に役立つ話題集

シゴトビトの言葉学

[第47講] 日本放送協会盛岡放送局 ディレクター 馬久地 杜行のコトバ

毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。

47-title北海道余市町出身。子どものころ、家ではテレビとゲームが禁止されていた。テレビを見られるのは大晦日の紅白歌合戦、それに4年に一度の五輪とサッカーW杯だけ。流行りの芸人のことなど全然知らず「そんなの関係ねぇ!」とお笑いタレントのギャグをまねしていたクラスメートを「面白いギャグ思いつくなぁ」と尊敬の目で見ていた。ただ映画鑑賞は許されており、映像好きのベースは禁断のテレビと映画がつくったのかもしれない。動物好きで大学は獣医学科を目指した。しかし、1浪後センター試験に失敗し、獣医は諦め同じ農学部の応用生物化学科に。大学では映画サークルに入り、ゾンビ映画をはじめとしたマニアックな映画づくりに没頭した。

科学の道ではなくメディアを目指す

大学で研究したのは遺伝子組み換え技術を使って「四つ葉のクローバー」が人工的にできるのかというものだった。千株作ったが、生えてきたのは四つ葉ではなく葉の形が変わった三つ葉のクローバーだった。その上、オープンキャンパスで研究概要を見せた高校生から「人工で作った四つ葉で幸せになれるのか?」と言われ科学とは?と思い悩む。就職活動ではテレビなど映像メディアを中心に受験し、東京の映像制作会社と岩手県内のTV局から内定を得た。制作会社は大きな番組制作に参加できる一方で労働は過酷、時には体を壊す人も。地元TV局は規模が大きな番組はできないものの自由にそして元気にやれる。2017年地元TV局に入社した。

報道記者からNHKディレクター

TV局での配属先は報道部記者。事件事故などを担当する警察担当となり、着任早々の5月、釜石市尾崎半島の山火事で記者レポ。カメラ視線ではなくカメラマン視線で話すなど場慣れしない姿が好評だったのか、期せずして全国デビューに。しかし、元来人とのコミュニケーションは苦手で、入社半年で5キロやせるなど記者の大変さを感じ「向いていないかも」と思うように。そんな悩みを和らげたのは自分の好きな分野での番組作りだった。記者の仕事の合間をみて、クマや鳥など県内の野生動物を撮りため番組を作った。結局、報道記者として5年間勤務した。「向いていないと思う仕事でも自分が好きな分野で何かをやればどうにかなる。適性はあまり考えなくてもいいのでは」。自然や動物を題材にした番組の面白さを実感。そんな番組を制作するならNHKがいいと社会人枠での転職を目指す。何度か挑戦し、NHKの地方職員で採用となりディレクターとして盛岡放送局を拠点に東北で仕事をすることに。

「限界集落に住んでみた」

2022年4月に入局。その年の冬、岩泉町大川集落に1カ月を暮らしてみるという番組「限界集落住んでみた 岩手・岩泉編」のディレクターに。自らの体験をまとめた番組は、新たなドキュメンタリーとして反響を呼び、45分の拡大版も放送された。大川集落はクマの取材で知っていた。人っ子一人歩いていない厳冬期の集落で取材は難航、寒さなどでお腹を壊す様子もそのまま番組に。その時住民からは差し入れが。「最初の2週間は『取材』をしようと考えていた。取材をやめて住民たちとなにげなくお付き合いをするうちに取材ができるようになった」。限界集落に住む人々。その心の支えとなっている廃校となった小学校。住民の暮らしぶりや心の機微が胸にしみる番組となった。
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馬久地 杜行(まくち・もりゆき):
1994年北海道生まれ。岩手大学農学部卒業後、2017年4月岩手県内の民放テレビ局に。報道記者として事件取材や企画取材にあたり、野生動物が好きで入社5年目に自然番組を制作。2022年4月、地域職員としてNHK盛岡放送局に。ドキュメンタリー・スポーツ中継など番組制作をしている。

日本放送協会:
職員数1万343人(2022年度)。事業は、国内放送(総合テレビ、Eテレ、BS1、BSプレミアム、BS4K・8K、ラジオ第1・第 2、FM)、放送と受信の調査研究など。国内の放送局は54、海外総支局は全世界に29。

\馬久地さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/

・「好きは適性を超える」という言葉が響きました。日々の暮らしの中で感じたことや思うことを大切にしていきたいと感じました。メディアについて知らないことばかりだったので興味深い話がたくさん聞けてよかったです。

・テレビは見ていてもなかなかテレビ業界を職業にする人の話は聞いたことがなかったので興味深かったです。話の内容が分かりやすく、目指す業界は違っても参考になることはいくつもありました。

・業界の深い話が聞けてよかったです。ディレクターという仕事が具体的にイメージできました。人脈、時間管理などが大変なイメージがありますが、それだけやりがいがありそうな仕事だと思いました。おもしろかったです。

・お話しを聞いていて大変興味深い点が多かったです。就活の経緯も自分の考えていることと似ている点が多く、今後を考えると非常に参考になりました。


「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。馬久地さんは149人目のゲストでした。