シゴトビトの言葉学
[第44講] 株式会社小松製菓 執行役員営業統括部 部長兼任営業部 部長 青谷 耕成のコトバ
毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。秋田県横手市の中学、大仙市の工業高校を卒業して東京の芝浦工業大に入学した。電気設備科で学び、就職活動では「東京のテレビ局の裏方」を目指したが、うまくいかず、両親の希望もありUターンして秋田県の原宿系、ポールスミス系などを扱うアパレル会社に就職した。公務員一家の両親から「電気を勉強してきたのになぜ」などと言われ、「親を安心させるため」警察官など公務員になるための勉強をしていた。そんなとき、大手住宅メーカーが運営する岩手県内のホテルの募集を知り、応募し採用に。募集はビル管理業務だったが、なぜかフロントから売店担当に。売店では岩手県内の約100社のみやげものを扱っていた。売上上位の商品の一つが南部せんべい。出入りの担当者から声がかかり、小松製菓に転職した。「好きなことに熱中しいればそれが後から役に立つ。遠回りでもその体験は必ず生きる」
伝統を壊すための緻密な計算
小松製菓は、NHKの朝の連続ドラマ「おしん」のような口減らしで青森県に奉公に出た故・小松シキさんが地元に戻り始めた。1948年創業の伝統ある会社で「南部せんべいの乃巌手屋」ブランドで業界をリードしてきた。売り上げが頭打ちになるなど時代の波が業界や会社に襲ってきたとき、社長から「女性や子どもが喜ぶ商品開発を」と命令を受けた。手渡された本が「ブルーオーシャン理論」。競争のない新たな市場を切り開く」ための具体策が詰まっていた。この理論をもとに現在の市場を1年間かけ詳細に調べたところ、消費者の年代や性別、消費時期、売り場などが重複しない「チョコレートと南部せんべいの組み合わせしかない」という結論に。しかし、これは他社が従来のせんべいにチョコを塗る形で販売をしていた。それなら「女性や子どもが食べやすいよう、砕くしかない」。「こぼれない。食べやすい」などの理由で一口サイズが支持されていたことは、アンケートで分かっていた。これを社長に提案したところ「お前はくびだ」と激怒される。小松製菓では形の整った煎餅を日々丁寧に焼くことが一番で「割れせんべい」は不良品、廉価商品の代名詞だった。
やりがいは「ゼロから何かを生み出す」こと
社長の説得に使ったのは、自分で南部せんべいをハンマーで砕き、チョコを混ぜて作った試作品だった。これまでの転職を通じてプレゼンのこつは「絵やミニチュアなど相手に見えるものを作り、見てもらうのが一番」という経験則があった。試作品を食べてもらうなどして社長を説得し、発売にまでこぎつけたが、自身も「これが消費者に受け入れられるだろうか。万が一会社のイメージが悪くなったら」と不安もあった。ただこれまでのキャリアのなかで、仕事にやりがいを感じたのは「ゼロから何かを生み出し、形になったとき」。成功か失敗かは二の次という信念もあった。2009年12月に発売されたチョコ南部は1カ月で予想の1年分の注文が来る大ヒット商品に。これをきっかけに南部せんべいの粉砕した商品は当たり前になり、今ではから揚げの衣やケーキの下地にも使われている。
青谷 耕成(あおや・こうせい):
秋田県横手市出身。アパレル業、ホテル業などを経て2003年株式会社小松製菓入社。同社執行役員として自社商品企画をしながら「二戸市特産品開発推進協議会」会長として「にのへシャドーズ」を結成し、二戸ファンを増やしている。
株式会社小松製菓:
1948年創業、1970年設立。本社は二戸市石切所。店名は「南部せんべい乃巖手屋」。直営8店舗。従業員269人(女性217人男性52人)。盛岡市の(株)タルトタタンは盛岡本店が独立し、改名した。2016年に「2door(ツードア)チョコレート工場&店舗」をオープン。チョコレート商品の製造過程の見学や限定商品などを販売中。
\青谷さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/
・岩手県の誇りである南部せんべいの秘話を聞くことができてとても楽しかったです。特にブルーオーシャン戦略の話しがためになりました。南部せんべいの形を壊して新たにチョコレートと組み合わせるという意外性がヒットするきっかけになったのだと分かりました。
・なじみのあるチョコ南部の誕生について聞くことができ、大変興味深かったです。キャリアも一本道だったわけではなく、様々な経験をしてきたからこそ現在の仕事にたどりついた、生かせたということ。とても励まされる思いでした。
・「やったことに何でも失敗はない」というメッセージが心強かった。求職活動に前向きになれた。二戸に遊びに行ってみたいと思った。
「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。青谷さんは146人目のゲストでした。