シゴトビトの言葉学
[第38講] 「車もトマトも“作る仕事”」いわて若江農園 代表取締役社長 若江俊英のコトバ
毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。
10年勤めた関東自動車工業株式会社(現・トヨタ自動車東日本)を2007年に辞め、山梨県の農業法人サラダボウルや盛岡市内の野菜農家で研修し、2009年から専業農家として本格的に農業を始める。1年目は、地元農家と同様にハウスで夏秋栽培をしていた。休みなく年間360日働き、労働時間は4千時間に。一定の所得はあったものの、時給に換算すると絶望的だった。「好きでやって、楽しくて満足。でももうからないと誰もやらない」。規模を追求し、組織化し、ほかの産業にも負けない農業をしようと決意する。
勘やコツではなくデータ
現在、正社員やパート含め18人が働いている。情報を共有するため各人がスマホで勤務時間や仕事の内容を入力し、作業管理をしている。ハウスごとの作業状況が一目で分かるように入力した情報が画面表示され、作業の進ちょく状況を社員が共有している。既存のソフトにいいものがなく、プログラムは自社開発した。ハウスの光量、温度、二酸化炭素などの栽培環境は分単位でデータを取っている。トマトの成長を測定し、どうしたら収量、品質を上げらえるか考察し、環境を制御する。他の生産者がやっていないこんな努力が農園の特長だ。
自然科学や冒険が好き
虫やザリガニ捕りが好きで自転車で遠くまで遊びに行くような少年だった。中学時代、友人と北上川を石巻まで下ろうと計画。若い担任は「自分も一緒に」と賛同してくれたが、校長から許可は出なかった。勉強以外に力を入れたいと進学校には行かないつもりだったが、両親から懇請され、進学校に。勉強は熱心に取り組み、東北大学工学部に入学した。部活は「アドベンチャークラブ」。バイトをしてお金をため、それを資金に無人島など国内外で冒険旅行をした。
組織を飛び出し自分の裁量で
大学院の修士を終え入社した自動車会社では生産技術管理部門で働いた。新しい車の設計図ができるとそれを生産するための工場の設備などをパソコン上で再現し、問題点を洗い出して現場の工場で実現する。生産技術のなかでも溶接分野などを担当した。楽しく充実した仕事も10年を経過し「将来が見え、このままでいいのか」という気持ちが押さえ切れなくなった。仕事をしながら農家での体験や研修を重ね「農業は楽しかった」と転職を決める。「自分もそうだったが、20代など若いときはがむしゃらに仕事をしてほしい。そこから得られることは大きい」。それが若者へのアドバイスだ。
若江 俊英(わかえ・としひで):
1972年、盛岡市生まれ。東北大学大学院工学研究科修了。1997年、関東自動車工業株式会社(現・トヨタ自動車東日本)に 入社。2007年に退社し、山梨県の株式会社サラダボウルや盛岡市内の野菜農家で研修し、2009年から専業農家として本格的に農業を始めた。
いわて若江農園: ICT(情報通信技術)を使ったスマート農業で、鉄骨など9棟のハウス計70アールで大玉トマト、中玉トマト、ミニトマトを栽培。10アール当たりの年間収量は県内民間事業者で初めて40トンに(県平均は7トン)。いわて生協、ベルジョイスなどが主な出荷先。
\若江さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/
・どのように転職したのか聞けて良かった。20代はどんなことでも頑張ればいいんだと思った。話の内容がおもしろかったです。
・行動力、知識、学びの大切さを実感しました。大人になっても様々な事への興味を失わない活動的な面が、仕事を楽しくしているように感じました。
・転職するまでの流れを聞くことができてよかった。一つ一つの好きなことや自分の希望に従って動いてみる大切さがわかった。
「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。若江さんは138人目のゲストでした。