SYU-KATSU SPICES就活に役立つ話題集

シゴトビトの言葉学

[第37講] 「草鞋も多けりゃハイヒール~そもそも全員二足の草鞋~」工藤 玲音のコトバ

毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。
37-title

しぶたみ句会

石川啄木と同じ、盛岡市渋民がふるさと。中学生のころ母親に連れられ、しぶたみ句会に。「すごい、上手」とおじいちゃん、おばあちゃんにほめられ、言葉の世界に。日常のメモは歌づくりのため。すっかり勉強はおろそかになり、高校受験は父親の厳しい指導でどうにか切り抜ける。高校2年生で岩手日報随筆賞最優秀賞を最年少で受賞。3年生では全国高校文芸コンクール優秀賞に。受賞作「日々はゆくたとえばシャープペンシルの芯出すようにかちりかちりと」は試験中、問いが解けずに時間を持て余し、問題用紙に書き留めた。

BOOKNERDとの出会い

食がテーマのエッセイ「わたしを空腹にしないほうがいい」は俳句のWebマガジンに掲載し、そのあと自費出版の“ZINE(ジン)”として手売りしていた。盛岡市紺屋町に本屋BOOKNERDが開店し、その本も取り扱ってもらうことに。「なくなったら絶版に」と思っていたが、店主の早坂さんが「ここでこの作品が終わるのはもったいない。うちで出しませんか」。小さな本屋の大きな決断が1万部にせまる大ヒットに。これが複数の大手出版社の目にとまる。2冊目の「うたうおばけ」は福岡市の出版社から出版。「食べ物の話を書いてほしい」という依頼ばかりの中で、唯一「自由に書いてください」という申し出だった。

就職活動は大失敗

県内大学の受験を失敗し、思いがけず仙台へ進学。東北大の短歌会に所属し、全国の学生と競い合うように句作、作歌に没頭。そんな充実した学生生活も就職活動の時期に。同世代の就職活動へのまなざしが苦手で、積極的な就活はしようとしなかった。新聞社が第一志望で、インターンシップに参加。「必ずそこに受かるだろう」と進めていたが、まさかの1次不通過。「就活を完全に舐めていた」。6月時点で手札はゼロ、周囲の友だちや家族にも相談できず、どうしたらいいか分からないまま孤立していた。卒論の締め切りも迫るなか、教授の勧めもあり留年を決める。親が心配したため、盛岡に帰省。盛岡市内で行政の臨時職員をしながら、不足単位を取るため仙台市に通学し、卒論を書き上げ、2度目の就活をしていた。

理解ある会社との出会い

2度目の就活は新聞社へのリベンジや、出版社への就活を進めていたが、思うようにいかなかった。いくつかの企業を受ける中で、「執筆」をばかにされ、くやしい経験もした。仙台、東京へ出ることも視野に入れ始めていたころ臨時職員時代の業務に楽しさも見出し始め、その関連の民間企業を検索すると、ちょうど採用試験の申込締め切り日が昨日だった。「なんとか、書類だけでも」と電話連絡し、試験を受けることを承諾してもらう。これで盛岡の就活はやめよう、と思っていた面接で社長は「試験の作文が素晴らしい。君のような才能を盛岡から逃すわけにはいかない」。就活の苦労が吹き飛ぶ瞬間だった。入社してみると、詩に理解がある先輩や上司が待っていた。「辞めろと言われるまでここで勤めようと思っている」

みんな二足の草鞋

よく「二足の草鞋ですごい」と言われるが、誰でも仕事と生活という二足の草鞋。わたしは作家と会社員で、生活は両親に頼りきってだめだめ。仕事と生活を両立されているみなさんだって、十分すごい。

「なぜ作家に専念しないの」とよく言われる。専念しないと偽物なのだろうか、という後ろめたい気持ちがあるけれど、作家に専念する(=お金をもらって生活する)のは相当大変。生活に困って受けたくない執筆依頼まで受けなくてもいいように、会社員としての稼ぎは持ち続けたい。仕事で失敗したら「作家だもん」と思い、作家でうまくいかないときは「いざとなったら作家をやめてもちゃんと稼いでいる」と思うことで、気持ちを強く持ち続けている。それに、「働く」ことと向き合わないと暮らしていけない今の社会、時代の中で、正社員として働いているからこそ書けることがあると信じている。

「わたしを採らないと損」

大手就活サイトの合同企業説明会に参加したことがある。開始30分前に行ったが、会場はぎゅうぎゅう。白線に並んで「スタート」の声で一斉に希望の企業ブースに走る様子にぎょっとして「ただボーッと見ていた」。わたしは就活に1年間のブランクがあって、就活のこと、長い目で見た先のことを考える時間があったからこそ今の会社に出会うことができた。就活中は不安でいっぱいで、孤独だし、やけになりそうにもなる。教授に「就活は不安にならないようにやりなさい、やりすぎて不安ならやらなくていい、やらなくて不安ならやったほうがいい」と言われたことが、救いになった。就活の不安は一人では絶対解消できない。閉じこもらず、相談できる人や施設をみつけ話すようにしてほしい。内定を取れないとどんどん自己肯定感が低下していく。そんなときは無理にでも「わたしを採らないと損だぞ」と思って、がんばって、気高くいきましょう。shigoto37-pic

工藤 玲音(くどう・れいん):

盛岡市出身。盛岡市内の会社で正社員として働きながら作家活動をしている。コスモス短歌会所属、俳句結社樹氷同人。著書に『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『うたうおばけ』(書肆侃侃房)。初の小説作品『氷柱の声』が講談社群像4月号に掲載。4月に初歌集『水中で口笛』(左右社)刊行予定。

\工藤さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/

・求職活動が長期間となり、落ち込みがちな日々が続いておりました。お話は非常に興味深く、就活は「不安じゃないようにやりなさい」「気高い気持ちをもって」の言葉に勇気を頂きました。良い出会いが、就職やその後の人生に良い影響を与える事をあらためて感じ、外の世界にどんどん出ていきたい気持ちになりました。

・休職中で転職を考えています。人間関係があまりうまくいかず次の職場でもやっていけるのか、そもそも職があるのかということが不安でした。お話を聞かせていただいて当たり前のことでお恥ずかしいのですがどんな人も仕事をしている以上苦労や失敗があるということにほっとしました。自分以外の人が皆うまくいっているように思えて焦っていました。もう少し体調を考えながら焦らず仕事を探していきたいと思います。

・仕事と執筆活動の両立について、「生活をダメにするしかない」という表現が、直接的過ぎて笑ってしまいました。でも「好きなことだからどんな状況でもがんばれる」と言われるよりも、励まされるようにも感じました。好きなことであっても、体力も時間も限りがあるわけで、好きなことや趣味と仕事のバランスに悩んでいた自分からすると、勇気づけられる思いでした。


「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。工藤さんは137人目のゲストでした。