シゴトビトの言葉学
[第35講] 八幡平市商工観光課企業立地推進係長 中軽米真人のコトバ
毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。
2015年から始めた「起業志民プロジェクト」のルールの一つは「面白いこと以外やるの禁止」。“面白そうなこと”をやるのではなく“ガチでこれやったら面白いもの”だけを追求している。人生の時間の大半を占める仕事が楽しければ人生は愉しいし、毎日がつらい、大変ならちょっともったいない。「もっと面白いこと、楽しいいこと、わくわくすることをして新たな未来づくりを始めましょう」と呼びかける。公務員でも会社員でも「上から降りてくる仕事はつまらない」とよく聞くが、面白くする方法は必ずある。「私はどうしたら面白くなるかだけしか考えていない」
本質を突いた問いを立てる
八幡平市は少子高齢化が進み人口減が加速していた。でも、みんななぜ減っているのか突き詰めて考えていなかった。「どうして」を確かめるためお盆に市内全戸にアンケートし、U-ターンしない理由を聞いた。答えは「希望する職がない」が半数だった。若者が地元就職した場合と都内の就職先の業種を比べると一番の違いは情報通信業の職場があるかないか。企業誘致はなかなか難しいので、IT起業を増やすため手始めにプログラムを無料で教えるスパルタキャンプを始めた。
世界から注目されるプロジェクトに
スパルタキャンプを始めた2015年度は5回やって応募者は70人、3年目から毎年倍増し2019年度は1,712人の応募があった。「何か面白いことがありそうだ」とハワイやマレーシアなど海外在住者が仕事を辞めて来ている。「ここで働きたい」という希望も増え、5年間無料のシェアオフィス、起業のための資金調達支援、そこから起業者が生まれ、その方がキャンプで講師をしている。仮説を立てて始めたが、“本質を突いた”課題認識だったので、それがトライアンドエラーを繰り返しながらも発展していった。
地域の未来をデザインできるのは市町村職員だけ
人口増加社会ではお役所仕事の「先送り」でも問題は解決できた。でも人口減少社会が今後どうなるか誰にも分からない。学校の試験問題には正解があるが、現実の社会に正解はない。withコロナの時代、世界は大きく変わっていく。これまでは都市化に象徴されるように疎から密、開放から密閉だった。これからはその反対で「開疎化」の時代、それは地方の時代の始まりでもある。答えの分からない地域の課題を解決していけるのは国会議員でもなく県知事でもなく、不動産デベロッパーでもない。市民と直接触れ合っている基礎自治体の職員だ。
中軽米 真人(なかかるまい・まこと):
1998年松尾村役場入り。業務のかたわら情報化政策に関わり村内ほぼ全域ADSL化に貢献。合併協議会の情報システム統合担当となり、補助金に頼らず民間の力で市内全域の光ファイバー化を推進。2015年から企画総務部地域振興課地域振興係として「起業志民プロジェクト」を推進し、国内外から参加者が集まるプログラミング合宿「スパルタキャンプ」で多くの定住者、起業家を生み出している。
スパルタキャンプ:
八幡平市が地方創生の事業の一つとして実施している。ITのチカラを活用して起業したいという”強い思い”を持っている人が対象の短期集中型プログラミングスクール。同市の宿泊施設に泊まり込み1カ月でスキルを本格的に身につけるためのキッカケを提供。年齢、経験、職歴不問。受講料だけでなく宿泊費も無料で温泉にも入れる。毎回約500人超が応募し、志望動機などで選考し毎回15人ほどを受け入れている。
\中軽米さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/
・普遍的で仕事の楽しさを共有できるとても面白い内容でした。発想と着眼点と行動力とに、背中を押されたようで思います。
・仕事への考え方が変わりました。質のいいやるべきことを見つけていき、それを解いていくということが大切。仕事は楽しいことをやることで成功することが分かった。
・これからの就職活動に対しての見方、地方創生に向けた考えが変わりとても参考になりました。仕事に対する問いを見つけるといった目的意識の質を高める取り組みの大切さを学びました。
「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。中軽米さんは130人目のゲストでした。
過去の様子はジョブカフェいわての施設内に常設のDVDで閲覧できます。