SYU-KATSU SPICES就活に役立つ話題集

シゴトビトの言葉学

[第19講] 南部鉄器職人 タヤマスタジオ株式会社社長 田山 貴紘のコトバ

毎月1回開催の「しごとトークカフェ」。そこで社会人のゲストが語る、働き方、暮らし方、生き方とは?岩手で働く社会人たちからのメッセージを「シゴトビトの言葉学」として紹介します。

19-title「営業ができる人間は100人に1人で、南部鉄器の職人は100万人に1人。両方できるのは1億人分の1人」。こんな計算をして田山は父親が営む鉄瓶工房に弟子入りした。健康食品会社で磨いた営業力と400年の歴史を持つ南部鉄器職人の貴重性。「この二つの武器があれば絶対にやっていける」

脱サラのキーワードは伝統文化

大学院でバイオの研究をし、その延長で食品関係企業を受験し、大手の健康食品会社に。全国の販売店を巡り、営業指導などを6年間経験した。会社や社会が少しずつ分かってきた20代後半、「自分しかできないことをしたい」との思いが強くなり、自分の持っているものの棚卸しをしてみた。その答えは身近なところにあった。父親は南部鉄器伝統工芸士会会長、祖父はユネスコの無形文化財「早池峰神楽」の長老をしていた。自分の特徴を表すキーワードは伝統文化だった。

価値あるものは営業次第で売れる

伝統工芸の業界を調べたところ、日本の伝統文化を背景にした伝統工芸品には世界的に貴重な価値があることが分かった。価値はあるものの作り手の職人はそれを販売につなげる努力をほとんどしていなかった。南部鉄器の売り上げはここ30年で3分の1に落ち込み、職人は“絶滅危ぐ種”に。「南部鉄器には貴重な価値と魅力がある。それなら従事者が減っている今が参入チャンスだ」
「もうかるための工夫を」と2014年10月にタヤマスタジオを設立する。ホームページをつくり、中国の展示会に出品し、アフターサービスを充実した新たなブランドを立ち上げ、鉄瓶の良さをアピールするため白湯の飲み比べ会を開催。そんな努力で売上額を会社設立当初の6倍にした。「営業をちゃんとすれば売れることは分かっていた」

日常生活に南部鉄器を

「手をかけてつくったものは上質の時間をつくる。しっかりとした手作りの伝統工芸品は人生のたのしみに直結し、そこにあると周囲に幸福感を与える」。目指すのはそんな鉄器づくりだ。今年、盛岡の市街地に「鉄瓶の多い料理店engawa」を開店する。南部鉄器だけではなく岩谷堂箪笥や漆器などが日常の生活になかった若い世代は、伝統工芸品に新しさを感じている。日々の暮らしに役立ち、生活を豊かにしてくれる南部鉄器。その価値の再確認とともに販路はまだまだ広がる。1億分の1の挑戦が続く。
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タヤマスタジオ株式会社:
2013年設立。南部鉄器に魅せられたメンバーが、アイデアと人を繋ぎ生活に寄り添った伝統工芸の新たなカタチを創造している。

田山鐡瓶工房:
南部鉄器伝統工芸士会会長の田山和康(貴紘の父親)が代表。鈴木盛久工房を定年退職した2011年の4月に設立。鉄瓶、茶の湯釜などの鉄器製造、販売。

田山 貴紘(たやま・たかひろ):
1983年生まれ、盛岡市出身。埼玉大学大学院修了後、健康食品メーカーに入社。2011年の東日本大震災のボランティア活動を契機に地域貢献、地域資源を活用したビジネスを考えるようになり2012年に退社。滝沢市の田山鉄瓶工房に入り、父親に師事した。

\田山さんの言葉を聞いた、参加者のコメント/

・前職の経験を現在の仕事に活かされていて素晴らしいと感じた。いくつかノウハウがあるだけでも十分武器になるのだと感じた。

・人としてすごく楽しんで生きてらっしゃる方だと感じました。とても晴れやかな方で、私も同じように生きてみたいと思いました。

・南部鉄器業界ではこれまでやってなかったことにいろいろと挑戦しているということが印象に残りました。今後も新たな事業にチャレンジしていく田山さんのご活躍を楽しみにしています。

 


 

「しごとトークカフェ」は2010(平成22)年度にスタート。田山さんは115人目のゲストでした。
過去の様子はジョブカフェいわての施設内に常設のDVDで閲覧できます。